デジタルヘルスとは?
注目されている背景と課題・成功事例

健康を維持することは、私たちの生活にとって、とても大事なことです。この健康を維持するための取り組み、つまりヘルスケアをめぐっては、高齢化が進んだことによる社会保障費の増大、医療・介護人材の不足など、様々な課題が浮き彫りになっています。

こうした課題を解決するため、ヘルスケア分野でのデジタル化が加速しています。例えば、認知症の進行をAIで抑えるアプリや、VR(Virtual Reality)を活用した小児向けの弱視治療アプリなど、数多くのサービスが登場しています。

この記事では、医療やヘルスケア分野でデジタル技術の活用していく、いわゆるデジタルヘルスについて、わかりやすくお伝えしていきます。

 デジタルヘルスとは

デジタルヘルスとは

デジタルヘルスとは、英語のDigital Healthcareを元にして作られた言葉です。文字通り、AIやIoTなどのデジタル技術を活用したヘルスケアという意味を持ちます。

医療機関で使われる電子カルテのような、診療記録に関するシステムであるEHR = Electronic Health Recordだけではなく、歩数や脈拍など普段の生活に紐づく健康・医療情報を共有・活用するシステムのPHR = Personal Health Recordの連携が推進されています。

さらには臨床研究においても、デジタル技術の活用によって、これまでには無かった価値を作り出すことが期待されています。

 デジタルヘルスが注目されている背景

デジタルヘルスが
注目されている背景

次に、デジタルヘルスが世の中で大きな注目を集めている理由について説明していきます。ここでは「医療費増大への対応」「業務効率化・働き方改革」「地域医療格差の解消」という3つのポイントについて述べていきます。

医療費増大への対応

冒頭でもお伝えしたように、日本は超高齢社会を迎えています。こうした社会背景から、医療費は年々増加しており、2022年度の概算医療費は46.0兆円を記録しました。これは、対前年同期比で4.0%の増加、対2019年度比で5.5%増加しています。この3年間の伸び率を、1年当たりに換算すると1.8%の増加です。

デジタルヘルスの活用によって患者のデータを一元管理することで、無駄な再検査を省略し、より個別最適化された治療を提供できる可能性があるほか、これまで人力で行っていた問診をAI化することで医療従事者の業務を効率化することも期待されています。

このようにデジタルヘルスを通じて、患者への治療や医療従事者の業務効率の最適化を実現することで、医療費の削減につながると考えられています。

業務効率化・働き方改革

日本の医療は、医師の長時間労働によって支えられているという問題があります。厚生労働省が取りまとめた調査によると、2019年時点で、1週間の労働時間が80時間を超える医師は、全体の10%に該当すると報告されています。また、全体の1.2%の医師が1週間の労働時間が100時間を超えていました。

こうした問題を受けて、2024年4月から、医師の働き方改革の新制度が始まっています。具体的には、時間外労働の上限規制が設けられ、長時間労働が是正されることになりました。

デジタルヘルスを通じて、診療記録のサポートや、AIによる問診や画像診断など診断の手助けが実現できると業務効率が上がり、労働時間の短縮に繋がると期待されています。

地域医療格差の解消

厚生労働省が取りまとめた調査によると、2008〜2014年の6年間で、日本全体の人口10万人対医療施設従事医師数は10%増加しています。しかし、過疎地域医療圏に限定すると24%が減少しています。

オンライン診療などのデジタルヘルスが普及することで、医療過疎になっている地域とそうではない地域との格差が少なくなることが期待されています。

病院EXPOには、デジタルヘルス、病院運営、病院システムなど多数出展!医療DX・IT EXPOも2025年新規開催

 デジタルヘルスの課題

デジタルヘルスの課題

デジタルヘルスが普及することで、日本の医療には大きなメリットが生まれます。その一方で、実際に導入を進めるためには課題も残されています。ここでは、「データの品質向上」「フォーマットの統一化」「日本での普及率アップ」の3つに絞って説明します。

データの品質向上

デジタルヘルスの普及により、これまで以上の膨大な医療データを集めることができます。「デジタルヘルスとは」の項目で説明したように、診療記録に関するシステムであるEHR = Electronic Health Recordに加えて、個人の普段の生活に紐づくPHR = Personal Health Recordの情報が集まるからです。

しかし、こうしたデータを有意義に活用するためには、データの質を担保する必要があります。特にPHRは医療機関で測定・記録するデータではなく、個人の行動に委ねられているので、データにばらつきが出るおそれがあります。デジタルヘルスの普及による医療のビッグデータを活用するためにも、データの品質を向上させる必要があります。

フォーマットの統一化

デジタルヘルスには多くの企業が関わり、デバイスやアプリが開発されています。こうした様々なツールから収集したデータを1つにまとめることで、医療ビッグデータとしての価値が生まれます。

しかし、それぞれの企業によって独自のデータフォーマットが設定されているので、データを統合することが難しいという現状があります。そのため、まずはデジタルヘルスを通じて得られるデータフォーマットを統一する必要があります。

日本での普及率アップ

大手コンサルティングファームのアクセンチュアが2022年に公表した調査によると、過去1年以内のデジタルヘルス利用率は、グローバル平均の60%に比べて、日本は37%という結果が出ています。

グローバル平均よりも低くなった理由については、第三者が個人のヘルスケアデータを管理することに対して、諸外国と比べて信頼度が全般的に低いということが指摘されています。デジタルヘルスの普及率を上げていくためには、こうしたデータへの信頼性について理解を得ることが必要になるでしょう。

 デジタルヘルスの事例

デジタルヘルスの事例

ここまでデジタルヘルスについて解説してきましたが、実際にどのようなサービスが登場しているのか、具体的な例を紹介していきます。

AIインフルエンザ検査機器「nodoca」

アイリス株式会社は、AIインフルエンザ検査機器「nodoca」を開発しています。咽頭画像と体温や自覚症状等をAIが解析して、インフルエンザかどうか判定することができます。判定結果は、判定開始から数秒〜十数秒でわかるので、患者への負担を少なくする側面もあります。

「nodoca」は厚生労働省が定める新医療機器の承認を、日本で初めて取得したAI搭載医療機器で、「nodoca」を用いた診断は、2022年12月1日から保険適用となっています。

また、「nodoca」を開発したアイリス株式会社は、52の国と地域で予選を繰り広げた世界最大級のスタートアップピッチコンテスト「スタートアップワールドカップ2023」で世界チャンピオンになるなど、日本初の医療ベンチャーとして世界で注目を集めています。

AI問診システム「ユビーAI問診」

Ubie株式会社は、AIを活用した問診システム「ユビーAI問診」を提供しています。問診結果が電子カルテに自動登録されることで、医師がカルテに記入する負担を減らすことができます。アプリで利用できるので、自宅で問診してから医療機関に向かうと、患者の待ち時間削減にも効果があります。

日本初のVR吃音症改善プログラム「どもレンズVR」

日本初のVR吃音症改善プログラム
「どもレンズVR」

株式会社DomoLensは、VR = Virtual Realityを用いた吃音症改善プログラム「どもレンズVR」を提供しています。「どもレンズVR」認知行動療法とVRを組み合わせた「何回失敗しても大丈夫な、ストレスのない吃音改善ができる」サービスです。「面接練習」「プレゼン練習」「自己紹介練習」「電話練習」のシーンを、「Easy/Normal/Hard」の3つのレベルで体験できます。

参考:DomoLens|VR

 まとめ

まとめ

デジタルヘルスは医療の質を向上させるだけではなく、医療の持続可能性の観点からも重要な技術です。今回の記事を通じてデジタルヘルスの基本的な考え方をお伝えしましたが、機会があれば実際にデジタルヘルスを利用してみると、より理解が深まると思います。ぜひ挑戦してみてください。

病院EXPOには、デジタルヘルス、病院運営、病院システムなど多数出展!医療DX・IT EXPOも2025年新規開催

監修医師からのコメント

デジタルヘルスを普及させるには医療側が信頼度を高める必要があります。一方、患者が医療へ主体的に関わる際のツールとしてもデジタルヘルスは活用できます。お互いが関わり合ってより良い医療を作りたいですね。

監修者情報

監修:田頭 秀悟

名前:田頭 秀悟
所属:たがしゅうオンラインクリニック
専門領域分類:神経内科
経歴:鳥取大学医学部卒業。脳神経内科全般(特に認知症、神経難病)の経験を経て、2019年より、内科全般を対象とするオンライン診療専門の「たがしゅうオンラインクリニック」を開業。デジタルヘルスを活用して患者自身の病気を治す力を遠隔支援する「主体的医療」を理念に掲げ、診療にあたっている。
保有免許・資格:
日本内科学会総合内科専門医(2021年まで)
日本神経学会神経内科専門医(2023年まで)
日本東洋医学会専門医

▼この記事をSNSでシェアする