薬局DXとは?必要性と成功事例

さまざまな業界でDXが推進されていますが、私たちの健康を支えている薬局でも積極的にDXが推進されています。今回の記事では、薬局DXとはどのような取り組みを指すのか、なぜ推進する必要性があるのか、という点について説明していきます。

 薬局DXとは

薬局DXとは

薬局DXとは、薬局や薬剤師の業務に対するDX = Digital Transformationです。デジタル技術を活用して薬局の仕組みやサービスを変えていき、利用者にとってより良いものへと変革していくという意味を持ちます。

厚生労働省は、2015年に策定された「患者のための薬局ビジョン」で、薬局のあるべき将来像として、対物から対人業務へのシフトを明確にしました。一方で、必要な情報基盤が十分整っていなかったことなどの理由から、ビジョンに示された薬局の価値が十分に発揮されていませんでした。

こうした点を踏まえて2022年にまとめられた「薬局薬剤師DXの推進について」では、スマートフォンや4K・5Gによる高速大容量通信、リアルワールドデータの活用を念頭においた、ICT技術の更なる活用が呼びかけられています。

 薬局DXで実現できること

薬局DXで実現できること

では、薬局DXを推進すると、どのようなことが実現できるのでしょうか?厚生労働省が推奨する6つのICT活用に沿って説明していきます。

重複投薬や併用禁忌チェックの自動化

電子版お薬手帳などのICTを活用することで、 患者さんが利用する全ての医療機関の処方情報を把握し、一般用医薬品等を含めた服薬情報を一元的かつ継続的に把握することができます。こうした情報を活用して、重複投薬や併用禁忌チェックの自動化が期待されています。

リアルタイムの処方・調剤情報を把握したうえでの、丁寧な服薬指導

患者さんが利用する全ての医療機関の処方情報や服薬情報を一元管理することにより、処方・調剤情報をリアルタイムで把握することに繋がります。その結果、丁寧な服薬指導を行うことができます。

ICTを活用した対物業務の効率化による、服薬指導の時間の確保

2015年に「患者のための薬局ビジョン」を発表してから、「対物から対人へ」という言葉がよく使われるようになりました。しかし現状では、薬の配架や事務処理といった作業が多く、患者さんとのコミュニケーションに十分な時間を割けていない薬局も少なくありません。

ICTを活用することで対物業務の効率化を図り、服薬指導などの時間を確保することが期待されています。

オンライン服薬指導を活用したフォローアップと服薬アドヒアランスの向上

日本薬剤師会の定義によると、アドヒアランスとは、「患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること」です。服薬アドヒアランスが向上すると、患者さんが薬の必要性を意識することができるようになるので、治療の効果も向上すると考えられています。

薬剤師が患者さんに正しく薬を服用してもらうための服薬指導を行うことは、服薬アドヒアランスを向上させるために大きな意味を持ちます。オンライン服薬指導を活用することで、効率的・効果的にフォローアップすることが期待されています。

データのクラウド管理による、在宅訪問での薬学的管理の効率化

データのクラウド管理を行うと、どこにいても薬歴の閲覧や記入ができます。在宅訪問の際にも、薬局に戻ることなく、訪問先である患者さんの自宅で薬歴を確認し、効率的に業務を進めることができます。

電子処方箋ネットワークを活用した医療機関への効率的なフィードバック

医療機関と薬局の間では、処方箋の不備があった場合に、薬局から医療機関に問題処方についてフィードバックする疑義照会を行なっています。現在でも電話やFAXといったアナログな方法で実施する場合も少なくないため、薬局にとっては大きな手間です。

電子処方箋が普及することで、疑義照会を効率的に実施することができると期待されています。また、医師と薬局の双方で重複投薬や併用禁忌のチェックを行うことで、疑義照会自体の件数が減少する可能性もあります。

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 薬局DXの必要性

薬局DXの必要性

ここまで説明してきたように、ICTを活用した薬局DXによって多くのことができるようになることがわかりました。次に、なぜ薬局DXをする必要があるのかという点を説明していきます。ここでは、「薬剤師不足」「薬剤の売上減少」「かかりつけ薬剤師・薬局の推奨」の3つの点を取り上げます。

薬剤師不足

厚生労働省によると薬剤師の総数は、2018年で31万1289人、2020年で32万1982人、2022年で32万3690人と増加傾向にあります。しかし医薬分業の急拡大により薬局やドラッグストアの数が急増し、薬剤師の必要数も増加傾向していることや、地域での格差などから、薬剤師の不足も指摘されています。

薬剤師が不足すると、業務量が増えて対人業務に割ける時間が減り、患者さん一人ひとりとのコミュニケーションが減る恐れがあります。その結果、厚労省の健康寿命延伸プランで推奨される健康サポート薬局のような、地域の健康相談窓口としての役割を十分に果たせなくなる事態も懸念されます。

また、過重労働は薬剤師の退職の要因にもなりますので、薬剤師不足がさらに進んでしまう可能性も出てきます。

薬剤の売上減少

国が薬価を引き下げていることにより、薬価差益(薬価と仕入れ価格の差によって生じる利益)が減少しています。利益が少なくなれば薬局の経営が成り立たないため、薬局DXでコストを抑える必要があります。

薬剤師の人件費を削ることで経営を維持しているケースもありますが、人員を減らせば薬剤師の業務負担が大きくなり、サービスが低下する恐れがあります。

かかりつけ薬剤師・薬局の推奨

2015年に策定された「患者のための薬局ビジョン」で示されたように、厚生労働省はかかりつけ薬剤師や薬局の推進を行っています。

かかりつけ薬剤師には24時間の相談対応が求められており、対応できる体制を作る必要があります。しかし、先ほどの薬剤師不足でも指摘したように、薬剤師の人材リソースが限られているため、システムなどを活用したDXを実施する必要があります。

 薬局DXの事例

薬局DXの事例

ここまで薬局DXについて解説してきましたが、実際にどのようなサービスが登場しているのか、具体的な例を紹介していきます。

電子薬歴

電子薬歴は、薬歴に関するデータの可視化をすることで薬局業務を効率化することや、患者さんへの服薬期間中フォローを行いやすくするなどのメリットがあります。

電子薬歴を活用した事例としては、株式会社カケハシによる「Musubi」、株式会社アクシスによる「Medixs」、株式会社EMシステムズによる「MAPS for PHARMACY」、三菱電機ITソリューション「Melhis」などがあります。

かかりつけ薬局化支援サービス

かかりつけ薬局化の支援サービスを活用することで、薬局独自で患者さんとのコミュニケーションのツール開発することなく、かかりつけ薬局化を進めることができます。

かかりつけ薬局化支援サービスを提供している事例としては、メドピア株式会社の「kakari」や、株式会社メドレーの「Pharms」が独自のシステムを展開しているほか、株式会社ファーマシフトのようにLINE上に「つながる薬局」という公式アカウントを作り支援を行っている会社もあります。

医薬品ロス解消支援

かかりつけ薬局やオンライン診療が普及することで、調剤薬局では不動在庫や廃棄医薬品が増えることが予想されています。医薬品ロス解消支援のサービを活用することで、医薬品ロスを減らしつつ、薬の売却益も得ることができるようになり、薬局経営に貢献することができます。

医薬品ロス解消支援には、キリンホールディングス株式会社の「premedi」や、株式会社イヤクルによる「イヤクル」などがあります。

 まとめ

まとめ

今回の記事では、薬局DXについての背景や、具体的なDXサービスについて紹介しました。薬局DXを実現することは、調剤などの対物的な業務より、服薬指導などの対人的な業務を充実させる、「対物から対人へ」というビジョンの実現にも繋がります。この記事で説明したポイントを踏まえて、必要なDX化を検討してみてはいかがでしょうか?

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監修医師からのコメント

薬局DXは、我が国の医療システムの未来を形作る重要な取り組みです。本記事で詳述されているように、国が推進するオンライン診療やかかりつけ薬剤師制度と相まって、薬局DXは患者中心の医療サービスを実現する大きな可能性を秘めています。私の経験から申し上げますと、薬局DXの真価は単なる業務効率化にとどまりません。それは、患者の健康管理や医療安全の向上、さらには医療費の適正化まで、幅広い領域に positive な影響を及ぼす可能性を持っています。薬局DXは、まさに日本の医療の転換点となる重要な取り組みです。本記事が、薬局関係者のみならず、医療に関わるすべての方々にとって、薬局DXの重要性を理解し、その推進に向けた行動を起こすきっかけとなることを願っています。

監修者情報

監修:佐孝 尚

所属:センター薬局グループ執行役員、株式会社イヤクル代表取締役
経歴:北海道医療大学薬学部を卒業後、24店舗を展開するセンター薬局グループで勤務。革新的な在庫管理システムを導入し、年間6000万円の不動在庫削減を実現した実績から執行役員に抜擢される。
専門領域:薬剤師

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