病院の紙カルテ・電子カルテの保存期間は?
電子化するメリットを解説
病院の紙カルテ・電子カルテの保存期間は、最低5年間と定められていますが、場合によっては、5年以上の保管が求められることもあります。本記事では、紙カルテ・電子カルテの保存期間や保存方法、電子カルテに移行するメリット・デメリット、紙カルテの廃棄方法まで詳しく解説します。
病院のカルテ保存期間は何年?
病院のカルテ
保存期間は何年?
医師は診療を行った際には、診療録(カルテ)に下記内容を記載しなければなりません。
- 診療を受けた者の住所、氏名、性別及び年齢
- 病名及び主要症状
- 治療方法(処方及び処置)
- 診療の年月日
紙カルテの保存期間は5年
診療録は、「医師法」と「保険医療機関及び保険医療担当規則」の2つの法令で、最低5年間は保存するよう規定されています。 5年間の起算日は通常、患者が最後に診察を受けた日とされています。また、治療が継続している場合や病院の方針によっては、5年以上保存する場合もあります。
医師法による規定
医師法による規定
医師法は医師の資格や業務、義務などを規定したもので、病院または診療所の管理者は診療録(カルテ)を5年間保存しなければならないと定めています。
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“第24条 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
2 前項の診療録であって、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。”
出典:e-Gov法令検索|医師法第24条
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保険医療機関及び保険医療担当規則による規定
保険医療機関及び保険医療担当規則による規定
保険医療機関及び保険医療担当規則は厚生労働省によって定められたもので、保険医療機関と保険医の業務について規定した法令です。これによると、患者の診療録は診療が完結した日から5年間保存しなければならないと定めています。
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“保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあっては、その完結の日から五年間とする。”
出典:e-Gov法令検索|保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条
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5年を超えたカルテの取り扱いは医療機関によって異なりますが、法的な要件を満たした後は破棄することも可能です。ただし、医療過誤などが発覚した場合に備え、破棄する前に電子化することが推奨されます。
電子カルテの保存期間も5年
電子カルテも、紙カルテと同じく最低5年間の保存が求められます。この期間内は、カルテを適切に保管し、必要に応じて利用できるように管理する必要があります。
紙カルテの保存方法
紙カルテの保存方法
紙のカルテを保存する場合は、劣化を防ぐ環境が必要です。ここでは、紙カルテを保存する際に注意すべき点と適切な保存方法を紹介します。
温度と湿度
温度と湿度の管理は、カビの発生を抑え、紙の乾燥や劣化を防ぐために不可欠です。そのため、紙にとって保存に適した湿度(60%前後)と温度(20度前後)を保つことが望ましいです。
直射日光
直射日光に含まれる紫外線は、紙の変色や劣化の原因となります。また、亀裂が入るといった酸性劣化を引き起こすこともあるため、直射日光が当たらない場所に保管しましょう。
水濡れ
文書を保存する際は、水漏れや洪水の恐れのない場所を選びましょう。防水機能のあるキャビネットや箱を使用すると安心です。
防塵・防湿
埃や湿気を防ぐために、防塵や防湿機能を持つ保管場所を利用しましょう。防湿剤を活用するのも有効です。
カビや虫害の予防
紙文書の破損原因となるカビや虫、ネズミへの対策も重要です。定期的に清掃と防虫対策を施すことも重要です。
防火対策
火災防止には、防火性能を有するキャビネットや金庫を使用し、火災報知機や消火器の設置が効果的です。
紙カルテは経年劣化するため、定期点検が必要です。また、適切な保管には十分なスペースも必要とします。紙カルテのデジタル化を検討するなど、計画的に長期間の保管が可能な計画を立てましょう。
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電子カルテの保存方法と「電子保存の三原則」とは?
電子カルテの保存方法と
「電子保存の三原則」とは?
電子カルテを保存する際は、「電子保存の三原則」というガイドラインを満たす必要があります。これは、電子記録が法的な証拠として、また医療の質を維持するための基準として適切に機能することを示すためのものです。「電子保存の三原則」は、データの真正性、見読性、保存性の3つの要素があります。
真正性
電子カルテの作成者が明確で、虚偽の入力や改ざん、消去されることがないことを指します。誤って別の患者の情報を記録したり、情報間のつながりを間違えたりすることがないように混同を防ぐための措置が講じられていることも大切です。そのためには、電子カルテシステムへのアクセス制御、セキュリティの更新、デジタル署名などを用いて、不正アクセスや情報漏洩、データの改ざんを防ぐ措置を講じることが重要です。
見読性
電子保存された情報は、情報が必要な時に、権限を持つ人がいつでも読める形でアクセスできるようになっていることが求められます。また、長期間にわたって医療の現場で使えるクリアな品質を保ち、監査などの際にも問題がないように管理されることが必要です。
保存性
電子記録が法律で決められた期間、真正性、見読性を保って安全に保管されている必要があります。データの損失を防ぐために、定期的なバックアップを取り、非常時に備えて、データを復旧するためのプランも準備しておくなどをして、データの損失リスクを最小限に抑えます。
電子カルテを保存する場合は、以上3つの原則に従って適切に管理することが求められます。
紙カルテから電子カルテに移行するメリット
紙カルテから電子カルテに
移行するメリット
紙カルテから電子カルテに移行すると、以下のようなメリットがあります。
カルテを保存するスペースを削減できる
2004年に厚生労働省は「診療録等の外部保存について」という通知を発表し、一定の基準を満たす場合に限り「医療機関等以外の場所での保存(外部保存)」を認めました。カルテのデータをクリニック外のサーバー上に保存することができるようになりました。これにより、紙カルテを保存していたスペースを、重要な設備や患者ケアエリアなど、他の目的に有効活用することができます。
カルテが劣化しない
電子カルテは紙のように湿度や温度、カビや虫害などの影響を受けることがありません。適切にサーバーのバックアップをとっていれば、長期間にわたってデータを安全に保持できます。
検査データを自動で取り込める
検査データを自動で取り込める
検査機器からのデータを直接電子カルテに自動で取り込むことができます。これにより、手動でのデータ入力ミスを減らし、検査結果をリアルタイムで反映することができます。そのため、診療の迅速化も可能となります。
人的ミスを減らせる
人的ミスを減らせる
入力ミスや情報の読み間違いなどの人的ミスを大幅に減らすことができます。また、紙カルテのように記入者の筆跡を読み解く必要がないため、医療者間で正しい意思疎通ができるようになります。その結果、誤読による医療ミスのリスクを下げ、患者の安全を高めることができます。
業務効率化につながる
業務効率化につながる
カルテの入力、患者情報の更新、レポート作成など、多岐にわたる医療業務の効率を向上させます。また、リアルタイムでの情報共有が可能となるため、診療情報の提供書の作成や処方箋の発行など、さまざまな医療業務をより迅速に行えるようになります。これにより、全体の作業時間が短縮される効果が期待できます。
電子カルテ導入のデメリット
電子カルテ導入のデメリット
電子カルテの導入には多くの利点がありますが、いくつかのデメリットも考慮する必要があります。ここでは、電子カルテ導入のデメリットを詳しくみていきましょう。
導入までのリソース・コストがかかる
導入までのリソース・コストがかかる
電子カルテは、院内にサーバーを設置する「オンプレミス型」とサーバー設置を不要としインターネット回線を利用する「クラウド型」があります。オンプレミス型では、サーバーを院内に設置するための初期費用が比較的高額になりますが、クラウド型では初期費用を低く抑えることができます。
また、電子カルテを導入する場合は、医療スタッフのトレーニングやシステムのカスタマイズにも時間とコストが必要です。
紙カルテの情報を電子カルテに転記する手間もあります。ただし、電子カルテの提供元によっては、紙カルテをスキャンしてその情報を電子カルテに直接読み込める場合もあります。
停電時に使用できない
停電時に使用できない
停電などで電源が途絶えた場合、電子カルテは使用できなくなります。万が一停電でパソコンにアクセスできなくなったときに備えて、紙でも対応できるように準備するか、バックアップ電源のような追加の対策が必要になります。
サイバーセキュリティリスクがある
サイバーセキュリティリスクがある
電子カルテのデータはサイバー攻撃や内部不正のリスクにさらされる可能性があり、適切なセキュリティ対策を施さない場合、患者情報が漏洩する危険性があります。
基本的な対策として、ウイルス対策ソフトを使用し、従業員に対する定期的なセキュリティ研修が必要です。さらに、ログの監視やアクセスの制限を強化することで、内部からの不正行為にも効果的に対応できます。
電子機器が故障する
電子機器が故障する
電子機器の故障やシステムエラーによって電子カルテが使用できなくなったり、情報が失われたりするリスクがあります。電子カルテに依存していると、設備の故障が原因で患者の診療を行えなくなる場合があります。そのため、ベンダーのサポート体制を確認し、適切なバックアップ対策を整えることが重要です。
電子カルテに移行したら紙カルテは廃棄していい?
電子カルテに移行したら
紙カルテは廃棄していい?
電子カルテに完全に移行した後、紙カルテはプライバシー保護と情報セキュリティの観点から、適切に処理する必要があります。法的な保存期間は診療終了後5年ですが、訴訟や調査の可能性を考慮して、20年間の保存が推奨されます。この期間は、損害賠償請求の消滅時効期間に基づいています。
また、紙カルテを完全に廃棄する際は、情報が正確に電子化されたかを確認してから行います。廃棄はシュレッダーで行い、機密情報の漏洩を防ぎます。外部業者に廃棄を依頼する場合は、プライバシー保護認定を受けており、書類の破棄プロセスを直接確認できるサービスを提供している会社を選ぶことが大切です。
まとめ
まとめ
電子カルテ、紙のカルテに関わらず、病院でのカルテの保存期間は、診療終了後5年間と定められています。しかし、治療が継続している場合や訴訟や医療誤診の証拠として必要とされる場合も考慮し、実際の保存期間は延長されることがあります。
電子カルテを導入することで、保管場所として使われていた院内のスペースを有効に活用できるだけでなく、業務の効率化も図れます。使いやすさや費用面だけでなく、災害対策を含めた「電子保存の三原則」の確保、メーカーやベンダーによるサポートなどを考慮し、自院に適したサービスを総合的に選びましょう。
【新設】医療DX・IT EXPOには、電子カルテ、院内配送サービス、AI問診など多数出展!
監修医師からのコメント
電子カルテは患者情報への迅速で簡便なアクセスを可能にし、診療の効率が劇的に改善されます。また、物理的な保存スペースが不要になるため、紙カルテの管理にかかるコストと労力が削減されます。さらに、患者の病歴、薬歴、アレルギー情報などをリアルタイムで把握できるため、診断や治療の精度が向上し、重複検査や処方の防止にもつながります。
電子カルテは、情報の暗号化やアクセス制御によって、患者情報の安全性を高め、情報漏洩や紛失のリスクを低減します。これにより、医療従事者の負担が軽減され、患者ケアに専念する時間が増えるため、電子カルテは医療現場における効率性と質の確保に大きく寄与します。
機能や予算だけでなく、災害対策などのBCP(事業継続計画)も考慮して、自院の方針に合う電子カルテサービスを検討するとよいでしょう。
監修者情報
監修:眞鍋 憲正
名前:眞鍋 憲正
所属:テキサス大学オースティン校
専門領域:整形外科, スポーツ整形外科, 総合内科, 救急科, 疫学, スポーツ障害
経歴:
信州大学医学部卒業 / 信州大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座 博士課程修了 / UT Southwestern Medical Center, Internal Medicine, Visiting Senior Scholar / Institute for Exercise and Environmental Medicine, Visiting Senior Scholar / UT Austin, Faculty of Education and Kinesiology, Cardiovascular aging research lab, Visiting Scholar
保有免許・資格:
日本体育協会スポーツドクター
日本医師会健康スポーツ医"
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